婆姫の召使い
国分町の道を彷徨い、やっとの思いでスナック「ロプノール」に辿り着いた安東さんは、先客達に挨拶しながら、ボックス席のソファーに倒れこんだ。
「大丈夫?」
耳元に甘い香りが漂い、淡い視界の中に吉永小百合似のママの顔が・・・
「寝ちゃったわ。そっとしておいて。」
ソファーの上の肉塊に羽織っていたショールをそっとかけて小百合ママは、唇に人差し指を立てた。
先客の男達は、頷きながら声のトーンを落とした。
「ブリュッセルはEU(欧州連合)の首都だぜ、かなり厳重なテロ対策してたんやろ。」
「EU本部だけでなく、NATO(北大西洋条約機構)の本部もあったよな。」
「ごった返してたブリュッセル空港での爆発は2回やろ、しかも爆発の直前に発砲があったんやて、13人が死亡し、35人が怪我って言ってたよ。」
「ブリュッセル空港での爆発から約1時間後、ブリュッセル中心部にある地下鉄マールベーク駅でも爆発が起き、合わせると30人が死亡し、230人がけがをしたって言ってた。」
「えらいこっちゃで!」
・・・なんとなく目は覚めたが、まぶたが重い。どの位眠ってたのか?
安東さんは、一生懸命逡巡するが、脳が活動しない。
なにやらベルギーの話になってるらしいのだが、ストーリーが千切れていた。
“どうやら、2016年3月22日にベルギーの首都・ブリュッセルのブリュッセル空港及びマールベーク駅において発生した連続爆破テロ事件の話らしかった。”
やっと頭が回りだした。
薄っすらとした景色も、ゆがんでいた映像も、まともになってきた。
「ひどい話だよねぇ~」・・と、ぼやきながら安東さんは起き上がった。
なんや、起きたんか?
ボックス席のテ-ブルにあったお冷をごくごく飲んで、猫のように背筋を大きく伸ばした。
安東 博之:57歳
普段は、店の隅でみんなの話を聞きながら頷くだけの旅行好きの公務員が、しゃきっとした声で言った。
「うちにもテロリストがいるよ。」
「えぇ~」
普段おとなしい公務員の典型と言われる安東さんの口から、爆弾が飛び出した。
“自爆する気か?”
イゴッティ・ニナスが皮肉った。
「これが本当の話なんすよ。」
なんとなく嫌な予感がしたが、無口な安東さんの朴訥な話に耳を傾けることにした。
「うちに住んでるテロリストなんすけどね。」
「前世はきっと何処ぞの女王様だったんすよ。いや、マリーアントワネットかも知れない?」
“どっちもどっちや”
とにかく傍若無人なんす。
人前をはばからず、勝手な振る舞いやし、周りを無視して、勝手で無遠慮な言動をしまくるし、手に負えんのですぅ~。
“我儘”が服を着てるんです。幼稚園児ですら引いてしまうムチャクチャナ行動に出るんすよ。
「わかります?」
「わかる訳ないやろ!そんなのいるか?」
「息子か?」
「とんでもない。息子・娘は問題ありません。」
「私に似て、おとなしいもんです。」
「ほな、誰や!他人が同居してんのか?」
「ほんまにえらいこっちゃ!」
安東さん、なみだ目やん。
小百合ママからお絞りを受け取って、目頭を押さえたまま搾り出すように安東さんは言った。
『母です。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
「母はテロリストになったんです。」
全員が口を空いたまま、手に持ってたグラスを落としかけた。
・・・「婆姫の召使い<その2>」へ続く・・・
「大丈夫?」
耳元に甘い香りが漂い、淡い視界の中に吉永小百合似のママの顔が・・・
「寝ちゃったわ。そっとしておいて。」
ソファーの上の肉塊に羽織っていたショールをそっとかけて小百合ママは、唇に人差し指を立てた。
先客の男達は、頷きながら声のトーンを落とした。
「ブリュッセルはEU(欧州連合)の首都だぜ、かなり厳重なテロ対策してたんやろ。」
「EU本部だけでなく、NATO(北大西洋条約機構)の本部もあったよな。」
「ごった返してたブリュッセル空港での爆発は2回やろ、しかも爆発の直前に発砲があったんやて、13人が死亡し、35人が怪我って言ってたよ。」
「ブリュッセル空港での爆発から約1時間後、ブリュッセル中心部にある地下鉄マールベーク駅でも爆発が起き、合わせると30人が死亡し、230人がけがをしたって言ってた。」
「えらいこっちゃで!」
・・・なんとなく目は覚めたが、まぶたが重い。どの位眠ってたのか?
安東さんは、一生懸命逡巡するが、脳が活動しない。
なにやらベルギーの話になってるらしいのだが、ストーリーが千切れていた。
“どうやら、2016年3月22日にベルギーの首都・ブリュッセルのブリュッセル空港及びマールベーク駅において発生した連続爆破テロ事件の話らしかった。”
やっと頭が回りだした。
薄っすらとした景色も、ゆがんでいた映像も、まともになってきた。
「ひどい話だよねぇ~」・・と、ぼやきながら安東さんは起き上がった。
なんや、起きたんか?
ボックス席のテ-ブルにあったお冷をごくごく飲んで、猫のように背筋を大きく伸ばした。
安東 博之:57歳
普段は、店の隅でみんなの話を聞きながら頷くだけの旅行好きの公務員が、しゃきっとした声で言った。
「うちにもテロリストがいるよ。」
「えぇ~」
普段おとなしい公務員の典型と言われる安東さんの口から、爆弾が飛び出した。
“自爆する気か?”
イゴッティ・ニナスが皮肉った。
「これが本当の話なんすよ。」
なんとなく嫌な予感がしたが、無口な安東さんの朴訥な話に耳を傾けることにした。
「うちに住んでるテロリストなんすけどね。」
「前世はきっと何処ぞの女王様だったんすよ。いや、マリーアントワネットかも知れない?」
“どっちもどっちや”
とにかく傍若無人なんす。
人前をはばからず、勝手な振る舞いやし、周りを無視して、勝手で無遠慮な言動をしまくるし、手に負えんのですぅ~。
“我儘”が服を着てるんです。幼稚園児ですら引いてしまうムチャクチャナ行動に出るんすよ。
「わかります?」
「わかる訳ないやろ!そんなのいるか?」
「息子か?」
「とんでもない。息子・娘は問題ありません。」
「私に似て、おとなしいもんです。」
「ほな、誰や!他人が同居してんのか?」
「ほんまにえらいこっちゃ!」
安東さん、なみだ目やん。
小百合ママからお絞りを受け取って、目頭を押さえたまま搾り出すように安東さんは言った。
『母です。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
「母はテロリストになったんです。」
全員が口を空いたまま、手に持ってたグラスを落としかけた。
・・・「婆姫の召使い<その2>」へ続く・・・
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